井原西鶴の
浮世草子(うきよぞうし)「
世間胸算用」に、大勢が左右に分かれて言いたい放題、
ののしり合う場面がある。「お前は餅がのどに
詰まっておだぶつだ」「お前なんぞ、鬼に漬物にされろ」……。辛辣(しんらつ)だが、けんかではなく神社の祭事の描写(びょうしゃ)である▼
参詣する人が
故意(こい)に悪口を言い合う「悪口祭(あっこまつり)」や「悪態祭」などと呼ばれる祭りは、いまも各地に残っている。日ごろ積もったものを発散しつつ、言い勝った者が
福運(ふくうん)を得るという習わしが多いそうだ▼さて国会に目をやれば、与野党共催の「悪口祭」が、このところ随分
かしましい。「議会の華」といわれるヤジである。特に党首討論は
晴れ舞台とみえ、轟々(ごうごう)とわき起こる。あまりの聞き苦しさに国民から批判がわき、双方が自制を申し合わせた▼品格ばやりの
昨今(さっこん)だが、ヤジは騒々しいばかりで品がない。
寸鉄人を刺す機知(=機智きち)もない。それらが備わってこその「華」だろう。でなければ、
デシベルの単位で計測(けいそく)される物理的な騒音と変わらない▼〈菅(すが)直人の鼻の向こうにいる議員野次(やじ)に飽きたか二度も
欠伸(あくび)す〉と今月の朝日歌壇にあった。子どもっぽい、
締まらぬ姿を、テレビを通して国民は見ている。〈議事堂で歳費を食ってるやじの群れ〉と、こちらは小紙川柳欄▼党首討論の元祖、英国のチャーチル元首相は「議会の目的は殴り合いを議論に代えること」だと言っていた。裏を返せば、議会は言葉の
格闘技(かくとうぎ)場にほかならない。正々堂々の切り結びと、華の名に恥じない「ヤジ道」を、きょう午後からの麻生・鳩山討論で見たいものだ。
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